大学における障害学生受け入れの現状  ~2023調査より授業編~

殿岡 翼  殿岡 栄子  江連 領介

  • 今回は昨年実施した「大学における障害学生の受け入れ状況に関する調査2023」(以下本調査)の結果から、授業について分析します。2023調査の結果、調査対象大学 820 校(大学 810 校・大学校 10 校)に対し、回答数は386校で、回答率は 47%でした。前回調査より3校減りました。
  • 本調査は大学の総意としての回答を求めており、途中まで回答を入力していても大学の総意(決裁)が取れず、最終的な回答に至らなかった大学もあります。このような大学や学生募集停止となった大学は、回答数には含まれていません。
  • ※回答率とは、ある項目の回答数を回答大学数386で割った数(率・%)です。
  • ※前回比とは、前回と今回の回答率の差(ポイント)です。

授業での配慮 概要

  • 授業中に何らかの配慮を行う大学は347校で 90%を占めていますが、前回比が3ポイント減っているのは残念です。
  • 授業の項目別では一般講義、発表、定期試験が2ポイント伸びています。
  • 障害別では、内部が5ポイント、発達と精神が4ポイントと大きく伸びています。
  • 今回初めて調査した知的障害では「支援あり」が98校、25%でした。
  • ※なお障害別の詳細については次号で掲載予定です。

 以下、授業・障害別:配慮ありの回答数 率 前回比の順

授業配慮
配慮あり
回答数 前回比
授業全体 347校 90% -3ポイント
一般講義 302校 78% +2ポイント
語学授業 151校 39% 0ポイント
体育実技 190校 49% -1ポイント
実験 113校 29% -1ポイント
実習 211校 55% 0ポイント
発表 226校 59% +2ポイント
定期試験 260校 67% +2ポイント
障害別配慮
配慮あり
回答数 前回比
視覚障害 163校 42% +3ポイント
聴覚障害 197校 51% +1ポイント
肢体障害 219校 57% -1ポイント
発達障害 235校 61% +4ポイント
精神障害 240校 62% +4ポイント
内部障害 229校 59% +5ポイント
知的障害 98校 25% 新質問

授業全体配慮方針

  • 授業全体についての配慮方針の詳細を見ると、どの項目も非常に高い伸びを示しています。
  • 「配慮内容を教員に依頼」が299校で7ポイント増、「履修状況通知」が263校で5ポイント増、「配慮状況把握」が130校で4ポイント増でした。
  • また「ガイドライン作成」も3ポイント増えています。個々の教員に対応を任せるのではなく、大学として配慮を実施する姿勢が明確になってきたことが素晴らしいです。

 以下、授業全体配慮方針別:配慮ありの回答数 率 前回比の順

授業全体配慮方針
授業全体配慮方針内容 配慮あり
回答数 前回比
配慮内容を教員に依頼 299校 77% +7ポイント
障害学生履修状況を教員に通知 263校 68% +5ポイント
ガイドライン作成し、教員に示す 135校 35% +3ポイント
教員の配慮状況を把握 130校 34% +4ポイント
その他 31校 8% +1ポイント
授業全体配慮方針
授業全体配慮方針

一般講義配慮方針

  • 一般講義の配慮をみると座席位置配慮」が292校で2ポイント増え「補助機器」と「録音機器」の使用が2ポイント増えています。
  • 「欠席日数を考慮」が63校で、数はそれほど多くありませんが2ポイント伸びたのは評価できます。
  • 一方「講義に補助者を付ける」116校、「講義準備に補助者をつける」30校が1ポイント減っており、補助者配置が広がらないのは残念です。今後の大学の取り組みが期待されます。

 以下、一般講義配慮内容別:配慮ありの回答数 率 前回比の順

一般講義配慮方針
一般講義配慮内容 配慮あり
回答数 前回比
座席位置配慮 292校 76% +2ポイント
補助機器の使用を認める 233校 60% +3ポイント
録音機器の使用を認める 191校 49% +3ポイント
講義に補助者 116校 30% -1ポイント
補助機器・教科書の置き場所を確保 99校 26% 0ポイント
欠席日数考慮 63校 16% +2ポイント
講義ノートをコピー 43校 11% +1ポイント
講義準備に補助者 30校 8% -1ポイント
その他 48校 12% +3ポイント
一般講義配慮方針
一般講義配慮方針

語学授業配慮方針

  • 語学の授業では「別の課題を与える」が81校で最も多いです。
  • 一方「補助者をつける」は73校で2ポイント減っています。
  • 上記の「別課題」や「別科目履修」(19校、1ポイント増)は、重度の聴覚障害や場面緘黙などで、語学の授業の履修そのものが大きな負担となる場合には有効な選択肢となりえます。しかし履修が可能な障害学生に対して、補助者の配置や教材の作成等の合理的配慮が提供されずに「別の課題」や「別の科目履修」になっているならば、望ましいことではありません。
  • その他の配慮では「リスニングの免除(聴覚障害)、アメリカ手話に関する授業を履修することで第二外国語の履修とみなす(聴覚障害、授業の開設は年度による)」(群馬大学)などの事例がありました。

 以下、語学授業配慮内容別:配慮ありの回答数 率 前回比の順

語学授業配慮方針
語学授業配慮内容 配慮あり
回答数 前回比
別の課題を与える 81校 21% 0ポイント
補助者をつける 73校 19% -2ポイント
別科目履修による代用 19校 5% +1ポイント
特別クラスを編成 10校 3% 0ポイント
その他 64校 17% +1ポイント
語学授業 配慮方針
語学授業 配慮方針

体育実技配慮方針

  • 体育実技では「見学」と「運動器具の工夫」が1ポイント増え、「補助者をつける」が1ポイント減っています。全体で大きな変化は見られません。
  • 見学やレポートによる代用は参加がどうしても難しい場合の手段として、まずは運動器具の工夫や補助者配置、種目の変更など、障害学生が積極的に取り組めるよう配慮することが重要です。
  • その他の配慮として「激しい運動を避ける分、運動の特性の理解や学習意欲といった観点を重視して成績評価を行う」(青森公立大学)、「自己の動作や全体での位置を振り返って確認することができるように、必要に応じて授業の録画を行う」(鹿屋体育大学)などがありました。

 以下、体育実技配慮内容別:配慮ありの回答数 率 前回比の順

体育実技配慮方針
体育実技配慮内容 配慮あり
回答数 前回比
内容・種目の変更 93校 24% 0ポイント
見学 91校 24% +1ポイント
レポートによる代用 75校 19% 0ポイント
補助者をつける 47校 12% -1ポイント
運動器具の工夫 47校 12% +1ポイント
特別クラスを編成 28校 7% 0ポイント
別科目履修による代用 18校 5% +1ポイント
その他 38校 10% +2ポイント
体育実技 配慮方針
体育実技 配慮方針

実験配慮方針

  • 実験では、すべての項目について前回比でほとんど変化が見られませんでした。
  • 「補助者をつける」について率を比較すると、体育実技(47校12%)や語学授業(73校19%)に対して、実験では(77校20%)と高くなっています。障害学生は実験の際に人的サポートを必要とすることも多く、補助者の配置が進んでいるといえます。
  • ただし「使用器具の工夫」や「補助者」の前回比が減り「見学」や「レポート」、「別科目履修」が増えており、障害学生が参加しにくいのが現状です。
  • その他の配慮として「実験の作業内容の変更や軽減」(名古屋市立大学)、「実験中の着席の許可、手順書の準備」(東京農業大学)などがありました。

 以下、実験配慮内容別:配慮ありの回答数 率 前回比の順

実験配慮方針
実験配慮内容 配慮あり
回答数 前回比
補助者をつける 77校 20% -2ポイント
使用器具の工夫 40校 10% -1ポイント
見学 30校 8% +1ポイント
別の課題を与える 26校 7% 0ポイント
レポートによる代用 24校 6% +1ポイント
別科目履修による代用 4校 1% +1ポイント
その他 28校 7% +1ポイント
実験 配慮方針
実験 配慮方針

実習配慮方針

  • 実習では「実習先に配慮依頼」が189校で2ポイント増えました。それ以外の項目ではほとんど変化は見られませんでした。
  • その他の配慮では「教育実習等の学外実習において、合理的配慮の提供が可能な機関での実習を認めること。教育実習、病棟実習等の実習授業において、事前に実習施設の見学を行うことや、通常よりも詳しいマニュアルを提供すること」(山梨県立大学)、「実習先について、特別実習での実習先は、該当学生が通いやすく、また、本学教員が指導可能な環境にある病院・薬局を選定する」(岐阜薬科大学)、「発達障害のある学生への配慮:口頭中心の説明をよく理解することや、状況の変化に柔軟に対応することが苦手な面があるため、実験や実習において手順どおりにできない場合や教室や時間の変更に対応できないことがある。重要な内容については余裕をもって事前に、印刷物等目で確認できるものによって伝える、視覚的教材を使ってなるべく具体的な説明を心がける」(宮崎国際大学)などがありました。

 以下、実習配慮内容別:配慮ありの回答数 率 前回比の順

実習配慮方針
実習配慮内容 配慮あり
回答 前回比
実習先に配慮依頼 189校 49% +2ポイント
実習先のあっせん 71校 18% 0ポイント
補助者をつける 58校 15% 0ポイント
使用器具の工夫 39校 10% 0ポイント
別の課題を与える 26校 7% +1ポイント
見学 21校 5% +1ポイント
レポートによる代用 15校 4% 0ポイント
別科目履修による代用 4校 1% 0ポイント
その他 29校 8% +1ポイント
実習 配慮方針
実習 配慮方針

発表配慮方針

  • 「発表」は大学側が授業やゼミなどで、ディスカッション・意見発表・作品発表を行う際に障害学生に必要な配慮を行うかについて尋ねたものです。
  • 「補助機器の使用を認発表める」の170校は前回調査に引き続き今回ももっとも実施が多く、前回比も4ポイント増えています。
  • ほかの項目ではほとんど変化が見られませんでした。
  • その他の配慮では「個別の発表(人前での発表が困難な場合等)、チャットツール等でのディスカッションへの参加(音声による議論参加が難しい場合等)」(群馬大学)、「グループワークなどの際に話し合いのルールやマナーについて明確にする、オンラインによるグループワークの時のカメラをオフにすること、グループワーク時の筆談、可能な範囲で全体への発表を避ける、グループワーク等の際の討議内容や会話の文字記録、グループワークに代替する方法の実施(担当教員1人のみへの発表に変更など)」(文教大学)などがありました。

 以下、発表配慮内容別:配慮ありの回答数 率 前回比の順

発表配慮方針
発表配慮内容 配慮あり
回答数 前回比
補助機器の使用を認める 170校 44% +4ポイント
補助者をつける 80校 21% -1ポイント
別の課題を与える 74校 19% +1ポイント
別科目履修による代用 7校 2% 0ポイント
その他 87校 23% +3ポイント
発表 配慮方針
発表 配慮方針

定期試験方針

  • 障害学生に定期試験で何らかの配慮を行うと答えた大学は、260校(表1「授業配慮・障害別」参照)で全体の半数を超え、前回比も2ポイント増えました。
  • 配慮方針では「大学と本人との相談」が206校で3ポイント増え、「履修科目教員と本人との相談」が145校でこれに続いています。
  • 一方「大学で一定の基準を設ける」は34校(9%)で、依然として他の項目に比べて低い率となっています。これは定期試験での配慮が個別に行われる傾向を示しており、たとえば表2「授業全体方針」の中で「ガイドラインを作成し、教員に示す」大学が135校(35%)と比べても少ない状態です。
    定期試験は障害学生にとって、学業成績の評価に関わる重要なものであり、評価の部分の合理的配慮の基準作りが今後の大きな課題といえます。
  • 定期試験の配慮内容では「試験時間の延長」や「別室受験」が多いです。その他にパソコンやタブレットの使用を認めている大学や、障害による欠席への配慮として追試験の実施やレポートでの代用を実施する大学もあります。

 以下、定期試験配慮内容別:配慮ありの回答数 率 前回比の順

定期試験配慮方針
定期試験配慮内容 配慮あり
回答数 前回比
大学と本人との相談 206校 53% +3ポイント
履修科目教員と本人との相談 145校 38% 0ポイント
大学で一定の基準を設ける 34校 9% +1ポイント
その他 25校 6% +1ポイント
定期試験 配慮方針
定期試験 配慮方針