大学における障害学生受け入れの現状  ~2023調査授業障害別~

殿岡 翼  殿岡 栄子  江連 領介

  • ・今回は昨年実施した「大学における障害学生の受け入れ状況に関する調査2023」(以下本調査)の結果から、授業での障害別の配慮について分析しました。2023調査の結果、調査対象大学 820 校(大学 810 校・大学校 10 校)に対し、回答数は386校で、回答率は 47%です。前回調査より3校減少しました。
  • ・本調査は大学の総意としての回答を求めており、途中まで回答を入力していても大学の総意(決裁)が取れず、最終的な回答に至らなかった大学もあります。このような大学や学生募集停止となった大学は、回答数には含まれていません。
  • ※回答率とは、ある項目の回答数を回答大学数386で割った数(率・%)です。
  • ※前回比とは、前回と今回の回答率の差(ポイント)です。

視覚障害

  • 視覚障害学生への支援では、「プリント」が131校(34%)、「教科書」が71校(18%)、「板書の読み上げ」が58校(15%)で、いずれも3ポイント増加しました。
  • 教材の手配について支援が進んでいることがわかります。
  • 一方「授業に補助者」は2ポイント減少しました。
  • 「点訳サービスを実施」「音訳サービスを実施」「辞書」は変化がありませんでした。
  • その他の配慮として「授業場面では、教員は可能な限り指示語を使わず、具体的な言葉を用いながら説明を行う(宮崎国際大学)」「教科書については、学生の障害に合わせ、弱視の学生であれば教科書PDF化など、対応している。板書する場合の文字の大きさ、タブレットでの撮影許可をしている(愛知県立大学)」などがありました。

 以下、配慮方法別:回答数 回答率 前回比の順

視覚障害学生への配慮別学校数
配慮方法 回答数 回答率 前回比
プリント 131校 34% +3ポイント
教科書 71校 18% +3ポイント
掲示板の内容伝達 68校 18% +2ポイント
授業に補助者 59校 15% -2ポイント
板書の読み上げ 58校 15% +3ポイント
点訳サービスを実施 31校 8% 0ポイント
照明器具の設置 26校 7% +1ポイント
構内案内図を配る 23校 6% -1ポイント
音訳サービスを実施 20校 5% 0ポイント
辞書 16校 4% 0ポイント
点字のできる教職員がいる 12校 3% +1ポイント
その他 57校 15% +1ポイント
視覚障害 配慮
  • 支援者、コーディネートについて見ていきます。点訳や手話、介助などの支援に関して、誰が具体的支援を行い、それを誰がコーディネートしているかに着目して統計を取っています。
  • 視覚障害では、点訳は外部団体、資料拡大は大学教職員、授業補助は一般学生が主に支援しています。また、コーディネートでは「大学」がどの項目でも最も多く「障害学生本人」がこれに続いています。

 以下、視覚障害支援者別:点訳 資料拡大 音訳 授業補助の校数順

視覚障害学生への支援者別学校数
視覚障害支援者 点訳 資料拡大 音訳 授業補助
大学教職員 25校 110校 29校 38校
学内サークル 2校 1校 1校 1校
一般学生 7校 15校 27校 46校
外部団体 33校 3校 5校 3校
学外の個人 1校 1校 0校 2校
その他 9校 12校 12校 12校

 以下、視覚障害学生へのコーディネート団体別:点訳 資料拡大 音訳 授業補助の校数順

視覚障害学生へのコーディネート団体別学校数
視覚障害コーディネート団体 点訳 資料拡大 音訳 授業補助
大学 46校 106校 42校 73校
学内サークル 1校 0校 1校 2校
外部団体 4校 2校 2校 3校
障害学生本人 12校 17校 10校 11校
その他 5校 5校 5校 4校

聴覚障害

  • 聴覚障害の支援では、「ビデオに字幕」が74校(19%)「放送の内容伝達」が66校(17%)で、いずれも3ポイント増加しています。
  • 一方「授業にノートテイカー」「授業に手話通訳者」「手話のできる教職員がいる」がそれぞれ1ポイント減少しました。
  • 専門性の高い授業において、これらの補助者の配置が十分でないことは、学生の就学環境の悪化に直結するため、人材の養成が課題です。
  • その他の配慮としては「複数の聴覚障害学生が同じ授業を履修している際は、複数のアイパッドを接続し、UDトークを使用した修正者(学生)をつける(東北福祉大学)」などがありました。

 以下、配慮別:回答数 回答率 前回比順

聴覚障害学生への配慮別学校数
配慮方法 回答数 回答率 前回比
授業にノートテイカー 125校 32% -1ポイント
学内行事に通訳者 97校 25% 0ポイント
授業にパソコン通訳者 90校 23% 0ポイント
ビデオに字幕 74校 19% +3ポイント
放送の内容伝達 66校 17% +3ポイント
授業に手話通訳者 35校 9% -1ポイント
手話のできる教職員がいる 28校 7% -1ポイント
その他 89校 23% +3ポイント
聴覚障害 配慮
  • 聴覚障害の補助者は、手話通訳は外部団体が多く、パソコン要約筆記やノートテイクでは一般学生が行っています。
  • 他の障害に比べて「学内サークル」が障害学生支援を担っている、またはコーディネートしている割合が多いのも聴覚障害の特徴です。

 以下、聴覚障害補助者別:手話通訳 パソコン通訳 ノートテイク順

聴覚障害学生への補助者、補助手段別学校数
聴覚障害補助者 手話通訳 パソコン通訳 ノートテイク
大学教職員 15校 23校 22校
学内サークル 6校 15校 16校
一般学生 9校 61校 97校
外部団体 59校 25校 17校
学外の個人 11校 8校 7校
その他 9校 12校 13校

 以下、聴覚障害学生へのコーディネート団体別:手話通訳 パソコン通訳 ノートテイク順

聴覚障害学生へのコーディネート団体、補助手段別学校数
聴覚障害コーディネート 手話通訳 パソコン通訳 ノートテイク
大学 67校 81校 112校
学内サークル 1校 5校 6校
外部団体 13校 5校 7校
障害学生本人 14校 8校 10校
その他 6校 8校 7校

肢体障害

  • 肢体障害の支援では増加している項目はありませんでした。
  • 一方「授業に補助者」が76校(20%)「学内生活に介助者」が75校(19%)でそれぞれ2ポイント減少しました。
  • 授業の補助は言うまでもなく、食事やトイレなど学内での介助も、学生生活を送るには重要であり、聴覚障害学生支援と同様、人材の確保が課題です。
  • その他の配慮としては「車いすの学生用に座席を取り外し、車いす席を教室の出入口付近に設置している。介助者の入構を許可する。エレベーターの使用、医療用座布団の使用を許可する。必要な器具等の保管場所を確保する。車いすの学生のトイレ使用時の介助(名古屋市立大学)」などがありました。

 以下、配慮別:回答数 回答率 前回比順

肢体障害学生への配慮別学校数
配慮方法 回答数 回答率 前回比
机・イスの配慮 177校 46% 0ポイント
アクセス可能な教室に変更 137校 35% -1ポイント
授業に補助者 76校 20% -2ポイント
学内生活に介助者 75校 19% -2ポイント
授業にノートテイカー 68校 18% 0ポイント
学外生活介助者の派遣 1校 0% 0ポイント
その他 57校 15% 0ポイント
肢体障害 配慮
  • 補助者についてみると、肢体障害授業補助、介助ともに一般学生が最も多く、次いで大学教職員となっています。
  • また授業補助では学内サークルが、介助では学外の団体・個人と続きます。
  • コーディネートでは「大学」が最も多く、次いで「障害学生本人」となっています。

 以下、肢体障害補助者別:授業補助 介助順

肢体障害学生への補助者、
補助手段別学校数
肢体障害補助者 授業補助 介助
大学教職員 31校 41校
学内サークル 8校 4校
一般学生 77校 41校
外部団体 6校 22校
学外の個人 8校 14校
その他 14校 25校

 以下、コーディネート団体別:授業補助 介助順

肢体障害学生へのコーディネート団体、
補助手段別学校数
肢体障害コーディネート 授業補助 介助
大学 89校 68校
学内サークル 2校 1校
外部団体 4校 6校
障害学生本人 16校 33校
その他 7校 10校

発達障害

  • 発達障害の支援では「授業中の入退室を認める」(189校、49%)が6ポイントと大幅に増えています。
  • また「履修・スケジュールの管理」(139校、36%)が3ポイント「プリント」(77校、20%)」が2ポイント増えています。
  • 「学習技術の向上を図るための支援」や「授業に補助者」も1ポイント増えており、視覚・聴覚ではなかなか広がらない人的サポートもわずかながら進んでいます。
  • その他の配慮としては「課題提出締切日を延長する。グループ活動時、配慮の必要な学生と同じ専攻の学生が一緒になるようグループ編成をしたり、グループのメンバーを固定にしたりする。音声認識アプリの貸し出しを行ったり、使用を許可してもらったりする(宮城教育大学)」「板書のスマホでの撮影、授業のICレコーダーでの録音を認めた。グループ討論では、無理に活動に参加させないように教員が指導・助言する。グループ討論の発言の代替措置として、簡単なレポートを課すこともある。発表のスケジュールを事前に伝え発表の意思を確認し、研究室等で1対1の発表を行う。(代替措置としてレポートを課す) 特別修学サポートルームで発表の事前リハーサルを行う。オンラインでの受講を認める(新潟大学)」などがありました。

 以下、配慮別:回答数 回答率 前回比順

発達障害学生への配慮別学校数
配慮方法 回答数 回答率 前回比
授業中の入退出を認める 189校 49% +6ポイント
履修・スケジュールの管理 139校 36% +3ポイント
自習・休憩スペースを用意 84校 22% +1ポイント
プリント 77校 20% +2ポイント
学習技術の向上を図るための支援 76校 20% +1ポイント
補助機器 47校 12% +1ポイント
授業に補助者 24校 6% +1ポイント
教科書等 22校 6% +1ポイント
その他 77校 20% +2ポイント
発達障害 配慮

精神障害

  • 精神障害の支援では「座席を配慮」(210校、54%)と「授業中の入退室を認める」(195校、51%)がそれぞれ大幅に増えています。
  • 「自習・休憩スペースを用意」「別室またはオンラインでの受講」もそれぞれ2ポイント増えています。
  • 他人の視線などが気になってしまう精神障害学生にとってこうした合理的配慮が進んでいることは評価できます。
  • その他の支援では「発作時の配慮、講義の録音許可、出席回数限度の緩和、課題提出期限の延長、講義中の内服水分摂取(北海道科学大学)」「音楽幻聴がある学生に対し講義中のイヤホン使用を許可(名古屋文理大学)」「課題の提出期限の延長を認める。体調不良により欠席した場合等において、代替課題等により評価を行う。緊急時の対応フローを学内で共有する(福岡大学)」などがありました。

 以下、配慮別:回答数 回答率 前回比順

精神障害学生への配慮別学校数
配慮方法 回答数 回答率 前回比
座席を配慮 210校 54% +6ポイント
授業中の入退出を認める 195校 51% +6ポイント
履修やスケジュールの管理を行う 96校 25% +1ポイント
自習・休憩スペースを用意 72校 19% +2ポイント
別室またはオンラインでの受講 71校 18% +2ポイント
学習技術の向上を図るための支援を行う 38校 10% +1ポイント
補助機器 35校 9% +1ポイント
授業に補助者をつける 11校 3% 0ポイント
その他 54校 14% +1ポイント
精神障害 配慮

内部障害

  • 内部障害の支援では「座席を配慮」と「授業中の入退室を認める」がどちらも4ポイントと大きく増えており、半数の大学で実施されています。
  • 「自習・休憩スペースを用意」が2ポイント増えています。また「別室・オンラインでの受講」や「履修・スケジュールの管理」「補助機器」もそれぞれ1ポイント増えています。
  • 一方「授業に補助者」は1ポイント減っており、他の障害種別と同様に人的サポートが十分ではないことが懸念されます。
  • その他の配慮では「許可を取った上で授業中の補食を認める。(血糖値等のコントロールのため)(東京芸術大学)」「意識を失った際の緊急時の対応。体温調整の為の、ミニ扇風機やアイシングの持ち込みや使用を認める。体調不良を理由に、試験日を欠席した場合の代替課題または別日受験を認める。病院受診などが理由の為の欠席の代替措置。(沖縄国際大学)」「緊急時の対応について周知 ・健康診断時の配慮 ・休憩、休養場所の提供(保健室) 、欠席した場合の講義資料などの提供や授業内容について確認 、授業中の水分補給や糖分補給 、薬の服用許可 ・血糖測定器での確認(京都外国語大学)」などがありました。

 以下、配慮別:回答数 回答率 前回比順

内部障害学生への配慮別学校数
配慮方法 回答数 回答率 前回比
座席を配慮 195校 51% +4ポイント
授業中の入退出を認める 193校 50% +4ポイント
自習・休憩スペースを用意 69校 18% +2ポイント
別室・オンラインでの受講 62校 16% +1ポイント
履修・スケジュールの管理 48校 12% +1ポイント
補助機器 31校 8% +1ポイント
学習技術の向上を図るための支援 20校 5% 0ポイント
授業に補助者 15校 4% -1ポイント
その他 32校 8% +2ポイント
内部障害 配慮

知的障害

  • 今回初めて知的障害学生に対する授業での配慮について調査しました。
  • 「授業中の入退室を認める」が75校、19%で最も多く実施されており「履修やスケジュールの管理を行う」(54校、14%)「自習・休憩スペースを用意」(36校、9%)「プリント」(33校、9%)と続きます。
  • 知的障害の支援では、本人の使いやすい形で教材を準備する、補助機器を用意する、補助者をつける、学習技術の向上を図る支援を行うなど、学習の理解に直結する支援を多面的に実施することが重要です。
  • その他の配慮では「座席の配置、板書の撮影、ICレコーダーの使用、グループメンバーへ特性の周知、発表方法の工夫、実習先の事前訪問、試験及び授業欠席時の代替課題の設定、授業欠席時の情報保障、課題提出期限の延長、移動支援(教室までの同行)、定期的な面談(長崎大学)」「発達に課題のある学生や基礎学力を身に付けたい学生に対し、学習支援室を設置している。(大阪学院大学)」などがありました。
  • ※新規実施のため前回比はありません。

 以下、配慮別:回答数 回答率 前回比順

知的障害学生への配慮別学校数
配慮方法 回答数 回答率
授業中の入退出を認める 75校 19%
履修やスケジュールの管理を行う 54校 14%
自習・休憩スペースを用意 36校 9%
プリント 33校 9%
学習技術の向上を図るための支援 25校 6%
補助機器 21校 5%
教科書等 15校 4%
授業に補助者 12校 3%
その他 14校 4%
知的障害 配慮